M&A月報No.113 「クーデター騒動後の動向と深刻な洪水被害」

約15年ぶりのクーデターによるタクシン氏失脚後、タイ暫定首相に
元陸軍司令官のスラユット枢密院議員が指名された。
スラユット暫定首相は今回のクーデターを主導したソンティ陸軍司令官の
師匠でもあり、国王からも厚い信頼を得ている。

仕事は厳しいが人柄は温厚との評判で、陸軍司令官当時の2003年4月の
米誌タイムでは「アジアのヒーロー」として取り上げられる程、今なお、
軍人をはじめ、多くの国民の尊敬を集めている。

「軍人は政治に口出ししない」が持論の同新首相は、
「当初は、暫定首相に就任する気はなかった」と胸中を述べていたが、
改革評議会及びソンティ同議会議長の強い要請で決断をしたことを
述べると共に「より良い未来のために一致団結して協力をして欲しい」
と国民に呼びかけた。

国王及び今回のクーデターの黒幕とも言われているプレム氏の強い
意向が働きスラユット暫定首相が指名されるに至ったが、背景には、
新憲法下の民主政権移管までの国内治安維持及び軍の結束を
優先させた判断もあったと見られる。

同日、民主改革評議会は国家治安評議会に改称すると共に暫定憲法を
公布した。全39条から成り、治安評議会は首相の任免、布告発令などの
権限を有し、クーデターに関った軍人らの行為を免責とした。

また、約2,000人からなる国民会議を発足させ、その中より 互選で
200人に絞り、さらに100人を選任し、新憲法の起草を行う。
国民投票を経て、新憲法下での総選挙、新政権の発足は来年10月頃と
見ている。

タイ経済界からも、
「スラユット新首相は、誠実さ、透明性などの面で社会から認められ、
現状の国家情勢に対して最も首相として相応しい御仁であり、これまでの
実績も国内外で評価されている。国民団結を取り戻し、投資家の信頼を
高められるはずだ」
という高い評価と期待を寄せられている。

一方、国民よりは、

1) 物価高騰への取組み
2) 最南部3県の治安対策
3) 自然災害対策・被災者支援
4) 汚職取締り
5) 青少年問題解決

などが、新政権に求める緊急課題として挙げられた。
また、タクシン前首相とは異なり、GDP成長率より国民の真の幸福さ、
国王も提唱されておられる「足るを知る経済」政策に重点を置くという
施策方針にも強い支持を得ている。

ところで、 クーデターで一瞬にして失脚をしたタクシン前首相は、
滞在中のロンドンより党宛に手紙を送り、
「現在の様々な状況を勘案し、党及び党を愛する全ての人のため
党首辞任を決断した」と表明、旧与党のタイ愛国党の党首を辞任した。
今後は、政治活動を中止し、慈善活動を行う財団を興すことも示唆している。
未だ帰国出来ずにいるが、今後の彼の動きも注目である。

また、次期国連事務総長に立候補していたスラキアット前副首相などの
有力議員も相次いで離党し、離党者はすでに100人を超え、
タイ愛国党=タイ・ラック・タイ(タイ名称)は、すでに崩壊の様相を呈している。
タイ各紙は揃って、同党を沈没した大型客船タイタニック号に例え、
「沈みゆくタイ・ラック・タイタニック」などと揶揄した。

失脚したタクシン政権への追及も早速始まり、前政権が手掛けた
プロジェクトや同政権関係者の資産等を調査する資産調査特別委員会が
設置され、タクシン一族のシンCORP株売却に伴う脱税行為、
新空港用爆発物探知機購入、新空港乗入れ鉄道建設計画、ミャンマー政府
向け40億バーツの融資など、まず8件に関する調査に乗り出した。
今後、前政権の汚職、不正などが徹底追及され、タクシンの復権阻止を
阻むと共に支持派の排除も徹底的に行われるであろう。

ご意見番で、今回のクーデターの黒幕であろうプレム氏も
「第二次大戦はヒトラーが権力独占を狙ったため起きたものであり、
タイにも同じように特定個人・組織に権力を集中させようとした人物がいた」
と改めて、暗にタクシン前首相を厳しく非難、新政権下による汚職・不正
追及への動きを支持した。

スラユット新首相の就任より約1週間後、ようやく暫定政権の26名の閣僚が
決定した。首相は「夢は見ていない。現実に基づく新内閣だ」と述べ、
前政権で「論功行賞」とされた副首相や副大臣ポストが大幅に削減された。

その新閣僚の宣誓式で、プミポン国王は訓辞をされ、
「我々は今、洪水やその他の様々な多くの問題で深刻な困難に直面している。
また、国家に関する不祥事が内外で広く語られているが、その誤って伝わって
いる汚れたイメージを一刻も早く修正せねばならぬ。
各閣僚が全力で職務に邁進し、深く傷ついた国家の威信の回復を取り
戻さねばならぬ」
と述べられた。

その後、国会の機能を代行する立法議会の議員242名が、政治家・学会・
軍人・公務員・メディア業界など様々な分野から選出され、国王に奏上された。
旧与党・愛国党からは誰も選ばれず、一切排除された形となり、逆にタクシン
政権時代、冷遇されていた者が大半を占める構成となった。

議長には、歴代5人の首相の下で法務担当顧問を歴任した元上院議長兼
国会議長のミーチャイ氏が、前政権に近いと反タクシン派などより反対を
受けつつも選出された。

立法議会は暫定憲法第5条に基づき設置され、上院・下院、上下両院議会の
役割を担う。議会成立のための定足数は全議員の半数以上で、議員25名
以上の賛同もしくは内閣の合意で法案提出が可能と定められている。
また、議員100名以上の連名で、内閣に対し、議会での質疑応答を
求める動議の提出が可能となるが、内閣信任・不信任の議決権は有さないため、
軍部の影響力が強く反映された「御用議会」との批判も上がっている。

政治情勢が急速な変化を遂げている真っ只中、大雨による深刻な
被害が国内58県にまで広がっている。稲作被害も大きく、被害総額は
約12.3億バーツにも上り、国内有数の稲作地帯の中部では、年4回の
収穫期の内、第3期はほぼ全滅となった。
約30万戸の農家が影響を受け、稲田に関して言えば、452万ライの内、
約80%の368万ライに被害が出ていると言う。
来年の米価の上昇が懸念されている。

タクシン前首相政権下における政局混乱のため、延期されていた日タイFTA
締結に関し、暫定政権は、来年の総選挙後に発足する正式な政権が行うべき
と主張し、締結は少なくてもあと1年は延期される見通しとなった。
1年の遅れによる影響はさほど大きくないと両国政府は見ているが、
出来るだけ早い締結をタイ当地の多くの日系企業が望んでいる。

クーデター騒動が起こったばかりのタイではあるが、この度、米旅行雑誌が
選ぶ ASIA BEST CITY にバンコクが選ばれた。
古都チェンマイも堂々の2位であった。
バンコクは「世界で最も好きな観光地」でも、イタリアのフィレンツェ、ローマに
続き堂々の3位、チェンマイも負けじと5位に食い込み、観光国としての強さを
改めて証明した。
観光産業のさらなる発展が期待される大いに喜ばしいNEWSである。

以上

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一ヶ月間の休暇を取り、昨日バンコクに戻ってきた。
初の新空港利用となったが、まずその大きさに驚かされた。
移動にはかなりの余裕を見る必要性も感じた。
従業員にも未だ不慣れな点が見られたが、まずは及第点であろうか。
問題点はと聞くと、BAGGAGEの渡す所で多少の混乱が生じているとの
コメントであった。
税関を通り、ロビーに出ると、出迎えの人々が多く、これでは余程
出迎え場所を決めて置かねば見過ごす危険を感じた。

富永 勇三

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