M&A月報 No.242「新法案可決と規制緩和」
ここ最近、すっかり鳴りを潜めている、依然海外逃亡中のタクシン氏であるが、公判停止となっているタクシン氏の刑事裁判再開に道を開く法案がタイ立法議会において可決された。すなわち、首相や閣僚、国会議員らによる汚職事件について、欠席裁判を可能にするというものである。
タイの現行法では、被告が海外に逃亡しても時効は停止しないが、同法案は海外逃亡中の時効停止を盛り込んでいる。また、同法施行以前の事件にも遡及して適用することが可能となる。これにより、タクシン氏を被告とする少なくとも5件の刑事裁判が再開される見込みとなる。
軍事政権がタクシン氏を標的にしているのは明白であるが、これにより、長年に渡り国家の懸案事項となっている国民分断問題が少しずつでも解決の方向へ向かうことを切に願いたい。
軍事政権下において強化されている不敬罪の取締りが続いている。先日は、不敬罪の反対活動を行っている男性活動家が軍によって身柄を拘束された。
プラユット首相に付与されている超法規的権限である暫定憲法第44条に基づくもので、軍事政権は、「タイ王室はタイの安定の柱であり、いかなる誹謗中傷も認めない。不敬罪の適用は、国連人権高等弁務官事務所が主張する国際的な人権基準との不一致ではなく矛盾もしていない」と強く反発している。軍事政権が続く限り、不敬罪絡みの問題や課題は続いていくであろう。
王室関連のニュースだが、王室の資産の管理・運用を規定した新法が官報で公布され、翌日施行された。旧法下では、王室に関する財産は(1) 国王の個人資産に当たる「国王私的財産」(2) 王宮など国家の利益のために
利用されている「公共財産」(3) その他資産の「王室財産」の3種類に分類されていたが、新法下では、国王私的財産と王室財産の2種類とし、両財産を合わせて「国王財産」と規定され、国王の許可なく処分することが禁じられることとなった。
また、旧法下では国王私的財産は課税対象だったが、新法では国王私的財産を含む国王財産は免税措置の対象にもなり、全体的に国王の権限を強化する内容になった。
また、従来、財務相が自動的に就任していた王室財産委員会の委員長については国王が指名できるようになり、この度、国王側近のサティポン国王秘書官長(空軍大将)を任命した。王室資産の管理・運用に当たる王室財産管理局はタイ有数の企業グループや銀行の筆頭株主を務めるなど、タイ経済に大きな影響力を持っている。
昨今、タイ政府が強力に推し進める東部経済回廊(ECC)政策であるが、外資による高度技術、高付加価値産業への投資に期待しており、それを目的とした現地での市場調査やマーケティング、実現可能性調査(フィージビリティスタディ)を一定期間実施しやすくするための政策として、駐在員事務所設立の手続きに付き、大幅な規制緩和を行った。
商務省が、外国人事業法の営業許可申請を義務付けている業種リストから19種類のサービス業を外すための省令を発効し、駐在員事務所もその対象となったわけである。除外された19業種は、 その他、銀行業務に関連する14業種と、資産管理事業、地域統括会社、政府機関の契約相手、国営企業の契約相手となっている。
概略であるが、従来は駐在員事務所の申請から認可まで、準備期間含めおおよそ5~6ヶ月の期間がかかっていたが、今回の省令改訂のもとでは必要書類さえ準備できれば、商務省に対して駐在員事務所IDの手続きをするだけでよく、ID発行までの所要期間は約2週間程度となった。担当官や外国事業委員会による審査も省略され、駐在員事務所のライセンスや登記簿謄本も撤廃となった。
一方において、タイにおける不法就労取締りやその罰則は強化の一途を辿っている。先般、外国人の就労管理に関する勅令が発効され、産業界を賑わしたが、立法議会により法律への格上が賛成多数で可決された。
勅令については発効されたものの、政府は暫定憲法44条を発動し、労働許可なしに就労した外国人やその雇用者に対する禁錮や罰金を規定した
101、102、119、122の計4条の適用を2018年1月まで半年間延期した。政府は、延期により「勅令を見直すいい機会を得た」と述べているが、法律に格上げされたことで条例改正の手続きは一段と厳格になり、来年1月までに係る計4条の見直しを進めるのは事実上不可能とみられている。
101、102、119、122の計4条の概要は下記の通りである。
ぜひご参照いただきたい。
101条
外国人が労働許可を得ずに就労、もしくは外国人 就労禁止業務に従事した場合、当該外国人に対し、5 年以下の禁固刑もしくは10万バーツ以下の罰金、または、禁固刑と罰金刑を併科する。
102条
外国人が労働許可を得ずに就労、もしくは外国人 就労禁止業務に従事した場合、雇用者に対し、当該外国人 1 人につき 40 万バーツから 80 万バー ツの罰金刑に科す。
119条
外国人が短期就労許可や、その他必要な許可/許可証を得ずに就労した場合、2万バーツから 10 万バーツの罰金刑に科す。
122条
外国人を、労働許可証に記載された業務と異なる業務に従事させた雇用者は、当該外国人1 人につき 40 万バーツから 80 万バー ツの罰金刑に科す。
そのため、政府は、来年1月までに、外国人労働者が正規の労働許可証を得る手続きを行えるよう、同許可証を申請するための101の臨時受付センターを15日間の期間限定で開設した。これにより200万人の外国人の就労を合法化できると見込まれている。
外国人による申請が多い県のトップ3はサラブリ、チョンブリ、カンペンペットの各県であり、国籍別に見ると、ミャンマー、カンボジア、ラオスの順となっている。
政府が強力に進めるインフラ整備等にも外国人労働者が欠かせない。さらなる不法就労に対する厳格化も良いが、人手不足の問題等を解決するためには、正規の手続きや労働許可が得られるような機会を迅速且つ適切に与えるような政策・対応も急務である。
Comments are closed