M&A月報No.125 「国王御入院とスラユット暫定背水の陣内閣」

昨年のクーデターを指揮したソンティ陸軍司令官の後任に、アヌポン陸軍
副司令官が昇格した。
陸軍内では、穏健派で人望厚い人物で知られ、その柔軟さとバランス感覚の
良さは、軍外や陸軍OBよりの信望も厚い。


陸軍士官学校時代はタクシン前首相と同期の間柄であったが、距離を置き続け、
陸軍主流派エリートとして出世してきた。

彼の就任の狙いとしては、軍主導の政治印象を和らげ、来年の民政復帰に向け、
政情安定を優先させることにある。
今後の彼の手腕・指導力に期待したい所である。

かたや一方、未だ海外に亡命中のタクシン氏だが、米ウォール紙に
「暫定軍事政権は、タイ経済の発展や国民の利益拡大に対して有効な政策を
打ち出さず、自分と仲間を追い出すことに1年を費やしただけであり、出来る限り
早く消え去ってもらいたいものである」
と寄稿し、現政権を強く批判する姿勢をさらに鮮明にしている。

その渦中、タクシン氏を追い出したソンティ氏が、陸軍司令官の退任と共に
国家治安評議会議長も辞任したが、プミポン国王承認の下、スラユット暫定
内閣の治安担当の副首相として入閣するに至り、ついに念願の政界入りを果たした。
但し、民政政権発足までの期間限定でもある。
果てして、今年末の総選挙に立候補するのだろうか?
今後の同氏の動静が気になる所である。

ここタイでも、日本の元安倍政権下と同様の閣僚の不祥事が相次いでいる。
主要閣僚の内務大臣を含む5名の閣僚が、旧法に抵触する形で民間企業の
株式を大量に保有していた問題で辞職に至った。
また、同問題で首相府報道官も辞任している。
暫定内閣という短命政府だけに非常に憂しき問題だと感じている。

スラユット首相は、早速、内閣改造に取り組み、総選挙において大きな権限を
持つ内相を自らが兼務することとし、内外に公約した総選挙を確実に年内に
実施する強い姿勢を示した。
これは立法議会の一部より出ている辞任圧力を撥ね退け、総選挙実施までの
国家の舵取りを強く決意していることの表れであろう。
これ以上の信認力低下は避けられず、まさしく“暫定背水の陣内閣”
として、期待を裏切ることなく国家を安定路線に導くことが求められている。

さて、今まで名前が出てきた上述の御仁達は、昨年のクーデターから始まった
「力の攻防」の主人公達である。
タイ・ローカル紙は、その御仁達の職務内容を検証した上で、独自の“勤務評定”
をA〜D評価でランク付けした。

◆スラユット首相:C評定
枢密院議員を辞任して首相に就任。国民和解を最優先課題に掲げつつ、
民政移管までの暫定政権を率いているが、タクシン前首相支持派の圧力に
苦しめられている。
評価できる点は、総選挙の年内実施を決定した事のみ。

◆ ソンティ副首相(元国家治安評議会議長):D評定
タクシン前首相の汚職や不正をクーデターの大義としてきたが、
1年経った今もそれを具体的に検証できていない。
また、クーデターを主導した軍部が権力維持に腐心している事に対する国民の
疑念は実に大きい。

◆ノパドン・タクシン前首相顧問弁護士:A評定
タクシン前首相失脚後、“タクシン”の見出しがでるニュースの全てを管理。
また、タクシン政権当時の汚職や不正の真相究明作業を行ってきた資産特別
調査委員会等に対し、“何ら具体的証拠が提示出来ていない“として厳しく批判
すると共に、委員全員の即時辞任を求め、且つ同委員会の作業自体を違法
行為として法的措置も辞さない強硬な態度で臨んでいる。
「ノパドン、よくやった!」
これが、タクシン氏が同氏と再会した時の第一声であると言われている。

プミポン国王が、虚血症の治療のため、一時検査入院をされた。
国王は右足などの不調を訴えられたが、MRIによる脳検査の結果、
虚血症を発症していると診断。8時間に及ぶ薬物投与と治療を受けられた結果、
症状が改善し、又国王の血圧と呼吸は正常値に戻り、肩から腕の感覚も戻られた。
主治医は、早速、国王のためのリハビリテーション・コースを設け、ご回復に向け
全力を尽くすとしている。

入院時、病院周辺には国王の回復を願う、黄色のシャツを着た多くの国民が集まった。
また一夜で、政界人から一般人含め、8,873名によるメッセージが書き込まれた。
ご高齢の国王の健康状態には国民全員が心配をしている。
ゆっくりと御静養され、12月5日の80歳の誕生日、お元気なお姿を国民にお見せ
頂きたいと切に願うばかりである。

タイ労働省の中央賃金委員会は、来年1月より、全76県のうち56県における
最低賃金を1〜7バーツ引き上げることを決定した。
バンコクと周辺県など20県は3バーツの引き上げとなり、バンコクは191バーツ
から194バーツになる。

タイ政府は、閣議において商務省から提案のあった民商法の改正案を承認した。
これにより、新法人設立の際、これまで7名必要だった発起人が3名で良いことになり、
また法人設立の申請から認可までの手続きも1日で済む様になる。
かなりの手続き上の簡素化となる。
この改正案が立法議会をパスすれば、120日間の発布期間を経て、当改正案の
正式発令となる見通しである。
中小企業をはじめとし、さらなる企業開発の一役を担うことを期待したい。

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