M&A月報 No.160号
9月19日はタクシン氏がクーデターにより追放されてから4年が経過した日となる。
これに合わせて、赤組が5月以来の大規模な集会を計画した。
当局は街の中心部には400人規模の警官を配置、万一に備えた。
中心部では6,000人、その他周辺、地方において数千人規模の集会が持たれた。
しかし、盛り上がりは少なく、平穏な集会に終わり、関係者を安堵させると同時に、
我々もこれ以上の混乱が無かった事を素直に喜んでいる。
アピシット首相より新警察庁長官には、直々に、労いの言葉が掛けられた。
6,000人の集会より塀を一つ隔てた隣では、数千人の市民が終日競馬を楽しんでいた。
本当にタイとは奇妙な国である。
国外逃亡中のタクシン氏は、同日、国内和解推進に取り組むべきという声明を出した。
“クーデターにより我々は傷つけられた。
原則、理想、公正を無視し、勝利だけに執着してきたのは間違いであった。
血の弾圧は本年5月19日、クーデターは2006年9月19日をもって終わりにしようではないか。
国家や国民に損害しかもたらさない国家分断、国民同士の対立は止め、
国民各人が怒りや不満を抑え、痛みを分かち合い、
そしてお互いを許す慈愛の心を持って和解推進に取り組むべきである“
この声明が赤組の心に響き、一国も早い国民和解が実現することを切に願うばかりである。
公害問題で注視してきたマプタプットの住民訴訟であるが、行政裁判所は76プロジェクトの内、
2プロジェクトには中止の命令を下したが、残り74プロジェクに付いては続行を許可した。
公判に出席した住民(70歳)は“自分は既に6人の家族を癌で失った。
家内も目下癌にかかり闘病中である。
政府は自分達に早く死ねと言っている様なものである。判決には全く不満である。
さらに闘争を続ける“と涙を浮かべ語る姿が報道された。
企業よりの圧力で政治の力が働いた様に感じているし、
タイの公害問題はさらに続いてしまう危険を感じる判決であった。
また、この問題に対して、アピシット首相がアナン氏に会談を要請、
アナン氏が深刻な影響を与えるとした18業種に付き、政府の機関である国家環境委員会が7業種を外して、
11業種のみが問題ありと指摘した点に付き、指定する権限は国家環境委員会にあるので決定の判断は尊重するが、
何故7業種は外したか、国民に詳細を説明する義務はあると応酬した。
本件解決の為奔走したアナン元首相は、
“これでタイの公害問題が解決したとは全く考えていない。
自分は広範囲にその他地域を含め、実際に住んでいる人々の各家庭を訪問、環境問題に付いての聞き取りを行う”
と、今後の取り組みに付き強調し、今、手を打たねば将来に大きな禍根を残すと警鐘も発した。
外国企業の誘致を優先し、また企業の利益を優先した施策を政府が打ち続けると、
大きな代償を払う結果となる事を、日本よりも
多いに学んで欲しいものと思っている。
今回の判決は、残念ながら未だにタイは後進国の位置より抜け出せていない事を感じさせる。
アナン氏の指導力に期待したい。
また本件に関して、ある日本の機関の責任者が種々コメントしているが、
本当に問題の実態を詳細に把握した上での、コメントなのか、大いに疑問を感じている。
利権、収賄、反社会勢力の介入等、問題はもっと深刻と思っている。
タクシン氏を支援しているタイ貢献党であるが、党首が辞任、党会議を開き、前党首のヨンユット氏を再任した。
下馬評では元警察庁長官のコウイット氏が有力視されていたが、同氏は党首選に出馬しなかった。
実力者は元首相のチャワリット氏並びにチャルームの両氏であるが、
この二人はタクシン氏の意のままには動かない点より、タクシン氏に外されたとの見方である。
党首選びで迷走している感があり、タクシン氏の影響力の低下も囁かれている。
野党に下野した日本の自民党に似たものを感じている。
9・11が近づくとテロの話題が出て来るが、バンコクからロサンゼルスへの直行便TG795の機内トイレの鏡に、
“Bomb on plane”との記載が見つかり、大きな騒ぎとなったが、LA空港に無事到着、
その後の機内捜査、荷物検査でも、何も発見されず、落書きとの見方になった。
乗っていた171人の乗客には、何も知らせなかった様でパニックは無かったとの報道であるが、
是非犯人を特定し、厳罰に処して貰いたいという出来事であった。
昨今、バンコク並びにその周辺における爆弾事件が続いている。
軍の武器倉庫で兵器が盗まれる事件も相次いでおり、
大きな社会不安ともなっている。
30日には、プミポン国王陛下が入院されておられるシリラート病院に爆弾を仕掛けるとの脅迫電話が警察にあり、
警察と軍はすぐさま厳重警備体制を敷いて捜査したが爆発物は発見されず、国民は安堵の胸を撫で下ろした。
こちらも悪質ないたずらであったのだが、国王陛下が入院する病院に対していたずらが行われた事は、
タイ社会に変化が起きつつあることを暗示しており、非常に憂慮すべき事態である。
日本での民主党の総裁選び、大変注目していたのであるが、9月15日のタイの新聞を見るに、
何処にも出ていないではないか。
再度、良く見ると、第5面に、写真も無く、小さな記事が出ているだけであった。
“日本の首相何とか生き残る”
“菅は党員の投票で闇将軍を打ち負かす”
との見出しで、今後如何なる経済成長の施策が打たれるかを見ていこうとの内容であった。
日本の総理大臣の選任がこの程度の影響と見ているのかと、大変寂しい思いのする報道であった。
自動車メーカーの社長交代の方が大きな記事になる事を、政界、官僚の皆様は良く考えて欲しいと思う。
一方、日本のマスコミとは、どうしても国を混乱に落とし入れたいのかと感じてしまう程の報道活動がある。
民主党は分裂するとの大合唱。
その言葉を幹部より引き出そうとの取材合戦。
具体的に、新政府に何を期待しているのかを報道すべきではなかろうか。
多くの製造業がタイに拠点を移し、またはその規模の拡大を図っている。
それに伴い、関連企業、裾野産業、サービス産業も続々と海外展開を加速している。
言葉を返せば、日本では職が無くなって来ている。
誰もこんな事はしたいとは思っていないと考える。
この流れはどうしたら止まるのか。
この具体策を取材、報道し、政府に迫って欲しいと念じている。
法人税を下げれば止まると思っているのだろうか?
尖閣諸島沖での日本の海上保安庁巡視船と中国漁船の衝突事件に端を発する日中外交のドタバタと時を同じくして、
約20年前のブルーダイヤモンド事件が今なお深い傷跡を残すタイ-サウジアラビア間においても、
タイ警察高官人事が引き起こした外交騒動があった。
9月、タイ警察庁は定例人事異動で、警察庁長官補にソムキッド氏を昇格することを決定。
同氏は、タイ事件史に名を残すこのミステリアスな事件の渦中にいる疑惑の御仁である。
当然、サウジは猛反発。
タイ国内イスラム教徒のメッカ巡礼のためのビザ発給停止という強硬措置に出た。
ブルーダイヤモンド事件とは、1989年、サウジの王子宮殿で門番をしていたタイ人が
約2,500万ドル相当のダイヤを盗み、タイに持ち帰ったことから端を発した
タイ人宝石商の妻子殺害、在タイサウジ大使館員殺害、
サウジ人実業家行方不明などの連続事件である。
ダイヤ盗難後のタイ警察当局の対応は迅速であり、犯人は即座に御用、
ダイヤのほとんどを押収したのだが、その後がお粗末であった。
なんと、サウジに返還されたダイヤの大半が偽物だったのである。
そればかりでなく、上述のような殺人事件までもが発生したため、
サウジ側は大激怒。自国民のタイ渡航禁止のみならず、タイ人労働者の入国禁止措置を取った。
それ以来、タイとサウジの外交的緊張関係は続いており、尚且つ当のダイヤは未だに見つかっていない。
この事件は今年2月に時効を迎えているが、当のソムキッド氏は、当時の捜査官であり、
実業家行方不明事件への関与を疑われ、時効前に起訴された御仁。
いくら定例人事異動とは言え、警察のNo.2になろうとはサウジが怒るのも無理はない。
ソムキッド氏が昇進を辞退したことでドタバタは収拾に向かったが、改めて両国間の遺恨が深いことを印象付けた。
尚、その後のダイヤの行方に付いては様々な憶測や噂が飛び交っているが、
ある時、ある権力者の奥方が身につけていたなど、実にタイにはミステリアスな事件や噂が多いのである。
ある私大の調査では、8月の消費者景気信頼感指数は2007年の1月以来、
過去44ヶ月連続で上昇し、過去最高を記録した。
結構な事ではあるが、バーツ高による輸出への影響や今回の多発する爆発物事件等により、
今後指数が下がる懸念がある事も指摘している。
GDPは過去10年で最高になる予想であるが、国民の約半数は借金を抱えており、
貯蓄も少なく、国民の80%は生活は依然厳しいとの見方を示している。
一方、政府が進めている消費者支援策は約半数が評価せず、半数が評価するという50/50の見方となった。
例年の通り、フォーブスが2010年のタイ長者番付を発表した。
1位:CPのタニン会長 :70億ドル
2位:レッドブルのチャリアウ オーナー:42億ドル
3位:酒造業のチャロン オーナー:41.5億ドル
4位:小売業セントラルのチラテワット氏:29億ドル
5位:放送業のクリット氏:17億ドル
毎年同じ顔ぶれであるが、これも相続税が無い恩恵であろうかと思う。
逃亡中のタクシン氏であるが、4億ドルで23位となった。
資産を凍結、没収の判決が出た影響であろう。
彼もいよいよ闘争資金が目減りして来た感が否めない。
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