M&A月報 No.164号 「「タイ VS カンボジア と 黄 VS 赤 と 黄/赤 VS アピシット政権」

騒々しいアラブ諸国に負けてはならじとか、当地も赤、黄色両組が
デモをしかける計画を立てている。

親アピシットとみられていた黄色組は、今回のカンボジアとの領土問題で、
7人が拘束されたのに、政府の対応は手緩く、結果、タイの領土を侵され、
主権も無くなり、アピシット政権は無能で、即時降板を要求している。

これをリードしているのが、チャムロン元バンコック知事である。
1992年首相が指揮する軍隊とチャムロン率いる市民のデモ隊が激突、
多数の死者を出し、国王が二人を追放したのが、世に言う92年の
タイ流血事件であった。

この懲りない老人が、20年も経ている今、またタイの政治を混乱させ、
折角順調なタイ経済に暗雲を呼び込もうとしている。
多くの白組の人々は眉を顰めて決して建設的では無い彼のやり方に
不満を示している。
しかし彼は人々を扇動する話術に大変長けている事を過少評価も出来ない。

元々この領土問題は、タクシン首相がフン・セン首相と何等かの取引をし、
ここに在る寺院を世界遺産に登録する時、カンボジアの寺院として認めた時より、
反タクシン派が問題視して来たもので、これが国境問題でカンボジアに有利に
働いている点を反タクシンの黄色組が特に拘っている点である。

これにて、アピシット政権は赤/黄両陣営より退任を迫られる事態となった。
予定されるデモの場所が街の中心部だけに、関係する人々よりは懸念の
声も大きく上がっている。

これを少しでも緩和しようとしたのか、又は人々の注目を逸らすためか、
国境問題で紛糾しているカンボジアと遂に軍部が交戦の火蓋を切った。

双方に死傷者が多数出る事態となり、周辺住民が慄いている様子が報道された。
また世界遺産に登録されている寺院も、かなり砲撃で傷ついた状況が報告された。
中国系の人々を中心に、旧正月を楽しんでいるこの時期に、何故交戦まで
する必要性、緊迫感があったのか理解に苦しむ所であるが、どうもこれには
カンボジア軍部内の権力闘争も絡んでいる様である。

即ち、軍部の中に穏健派と強硬派(フン・セン首相の長男を含め)があり、
今回タイの軍部とカンボジアの穏健派が事態収拾に向けての会談の最中に、
強硬派がタイに向けて発砲を開始したのが原因と見られている。

フン・セン首相の長男フン・マネット准将は首相の寵愛を受けており、
米国のWEST POINTを卒業、その後、英国に渡り、MBAを取得、
現在は軍隊の幹部に異例の昇進をしている。

首相は今回この長男を国境に派遣し、指揮を取らせた。
そして隣国タイとの交戦を指示した様に感じている。
強いカンボジアをアピールすると共に、長男を有名にし、ヒーローに持ち上げ様と
した様相が読める。
国民的英雄に祭り上げ、更に昇進、その後は政界に入れ、自分の後継者にする。
今回の事件には、こんな筋書きがある様にも感じられる。

似た様な話が、北朝鮮でも聞かれた様に思っている。
これが真相であれば、カンボジアも北朝鮮同様、人騒がせな国である。

一方、バンコクでは、国境で隣国と撃ち合っているとの感触は全く無い。
タイのゴルフ場は日本等よりの観光客を含め、満員の盛況で、タイーカンボジア国境の
中立地帯にあるカジノもタイの富裕層の人々で活況を呈しているとの事である。

もし日本において隣国と交戦状態に入ったら、この様な平穏な気分では
いれないのでは無いかと不思議な感触を感じている。

首相同士は直ちに砲撃の中止を命令したが、先回の大使召還の折に、
両国幹部がゴルフに興じていた事を思い出し、今度はカンボジアで
ゴルフ中かな、との思いもある。

事態収拾にアセアン諸国も国連も動き出した。
カンボジア側はこれ等第三者の介入により事態の収拾に期待するとの態度を
表明したが、タイ側は”その必要性は無い。今回の問題は二国間だけの問題であり、
当事者同士の二国間で話し合って解決すべき”との態度を表明した。

一方開催が危惧された両国間の経済協力のフォーラムは無事開催され、
特にタイの繊維業界等はカンボジアへの生産基地移転に付き、協力関係の構築を
話し合った。

アセアンの盟主の座を競い合っているインドネシアが、この二国間の調停に乗り出した。
カンボジアは乗り気な様相であるが、あくまでも二国間の問題としているタイの動向が
注目されている。

今後の両国の外交交渉に注目してみたいと思っていたら、結局、タイ側も譲歩し、
インドネシアによる調停を受け入れ、今後約2年間はインドネシアの監視団が
常駐する事となり、この間に両国が国境問題を解決する事となった。

国連の介入を拒み、アセアン所属の国の調停とした事に、アセアンの心意気と
意義を感じている。
アセアンのリーダーに望まれている日本が、全くの蚊帳の外であった事を残念
にも思っている。

昨年5月の赤組による騒動の際に、7名の幹部が逮捕されていたが、
9ヶ月振りに保釈金60万バーツ/人で仮釈放された。

目下タイでは6月までに総選挙が行われる事が囁かれているが、これ等7名を
拘留中のまま、選挙を実施すると、選挙が不公平だとの指摘を受ける恐れがあり、
それ故に保釈したとの見方がある。
即ち、日本は不透明だが、タイは愈々近々の総選挙実施が現実味を帯びて来た。

先に触れたアピシット政権のバラマキ施策の内、タクシーやバイク・タクシーの
運転手並びに露天商等に対する低利融資を開始すると発表した。

野党よりは、選挙目当てのバラマキとの批判の声が当然上がったが、与党よりは、
貧困層の経済活動を活発化する有効なる政策だとの応酬がなされている。

当面、政府系金融機関を通じ、総額50億バーツを用意し、タクシーの運転手には、
500~600バーツを毎日支給し、彼等が車を保有出来る様にする事を目指している。
露天商等には、最大融資額を10万バーツとし、5年間、金利は6~12%としている。
しかしこの数字では、低金利とはいえず、どれだけの人々が応募し、どれだけの
経済効果が出るのかには些か疑問を感じているし、返済不能に陥った場合の対応、
事務処理に不安も感じている。

さらにアピシット首相は追加のバラマキを公表した。

1. 今後二年間で最低賃金を25%上げる。
2. 麻薬撲滅のため2,500人の精鋭を投入する。
3. 25万人の大学生に教育ローンを用意する。
4. 25万人の農民潤う様に特別な共有地を譲渡する。

日本の民主党同様、分かりにくい内容だが、4~8月の間に総選挙を実施するとの
発言もあり、安易な口約束が一人歩きし出している。
この程度で、勝利出来るのか疑問にも感じている。

ガソリンの不足、価格高騰を見越してか、PALM OILが市場から姿を消している。
人々がその対応に苦慮し出した。

NZの地震の関連で、タイ人の死傷者も出た。
しかしそのマスコミの報道を見ると、日本とは比較にならぬ小さな扱いとなっている。
内政の問題、国境問題、中東の問題に比し、巻き込まれた人々に哀悼の意を
表するが、その重大性に付いての考え方の相違を感じている。
日本のマスコミとは、誠にローカル色の強いものと認識せざるを得ない。

当地でも小規模な赤組のデモは行われているが、幸いにも平穏な日々である。
それに引き換え、中東、北アフリカでの政権転覆の騒動は、近年のタイの騒動を
思い起こさされる。

当地の新聞で面白い風刺マンガが披露された。
即ち、二頭のパンダが日本に高額で中国より貸与され、それを受け取った
日本国民が狂喜乱舞している姿である。

尖閣諸島の問題などはすっかり忘れた姿で、日本は甘いもの、二頭のパンダを
貸して置けば中国との友好ムード一色に成るというものである。
現在の日本の外交とは、タイやアセアン諸国よりは、この程度に見られているという事を、
日本国民、マスコミは認識すべきである。
寂しい事である。

またパンダ曰く、“人間共はどうしてかくも権力争いを繰り広げるのであろうか。
こんな世界では、我々が世界中に行って、紛争和解の手助けをせねばならぬのではないか“

確かにパンダは可愛く、愛くるしい。
しかし世界の人間が彼らの助力無くしては、紛争が解決出来ないという情けない
世の中ではあって欲しくないと願っている。

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