タイ憲法起草委員会による第一次草案に対する反政府グループの抗議集会が
国会前で開催されたり、暫定政権や国家治安評議会への批判や反対集会と
やらで、今年のタイ正月(ソンクラーン)前後は何かと騒がしかった。

スラユット暫定政権の反対市民団体の「土曜の声」は、クーデターの黒幕とも
言われ、また同政権の後ろ盾とされるプレム枢密院議長の更迭を求める署名
活動を行っており、10万人の署名が集まればプミポン国王に提出し、プレム
議長の更迭を嘆願すると息巻いている。

この動きに対し、ソンティ議長率いる国家治安評議会は
『王室への不敬罪に当たる可能性もあり、許される行為ではない』と警告し、
また『プレム氏は国家のために尽力している人物で更迭を求めるのは不適切
且つ無礼である』と厳しく批判している。
また、プレム氏本人も今回の署名活動とこれを看過している政府に腹を立てて
おり、同氏お膝元の南部ソンクラン県では支持集会が開かれるなど、総選挙
までの政局及び市民団体の動向から、益々目が離せない事態となって来ている。

スラユット首相は、日増しに高まる国家治安評議会下の軍事政権に対する
批判・不満を緩和させるため、憲法改正案の国民投票を9月末までに実施し、
総選挙を12月16日もしくは23日に実施するとの日程を掲げた。
同首相には、一時、辞任説も浮上したが、

『根も葉もない噂。今後も新たな障害があるかもしれないが、政治的手段に
よって問題を解決し、そして任期満了まで職務を全うする』と一蹴すると共に、
同首相との確執が噂されたソンティ議長も
『国家の混乱と分裂をもくろく対抗勢力が意図的に流しているものだ』

と非難している。

気になる同首相の支持率であるが、最新の世論調査では62%と、先月時と
比べると回復の傾向にある。但し、問題解決に向けた早期対応を望む期待票と
見ていいだろう。同結果に甘えずに、リーダーシップを発揮し、抱える数々の
難題・課題を迅速に解決していって貰いたいものである。

さて、その憲法改正案の第一次草案であるが、骨子は下記の通りである。

・ 首相は下院議員から選出。任期は連続2期8年まで。
不信任決議は下院議員の1/4。
・ 下院定数400(選挙区320+比例80)
・ 上院定数160(任命制)
・ 国家緊急時の特別委員会設置
・ 選挙期間中の政権を特別な条件に基づく「暫定政権」と位置づける。

今後、国民の意見も取入れながら問題点の手直しを行い、最終的な新草案を
憲法起草議会に上程し、承認が得られれば、国民投票に委ねられることになる。

しかし、立法議会議長は
『起草委員会は過去5,6年の間に起こった問題の是正を主たる目的に起草
作業をしているのではないか。その事に気を取られ過ぎている様に思え、
起草作業に偏りがあり、総合的な検討が行われていない感じを受ける』
とのコメントも出ている。

また、僧侶や仏教徒による、新憲法下における“仏教の国教化”の規定を
求める活動も活発化している。タイでは人口の95%が仏教徒である。
1997年に制定された旧憲法では「国王は仏教徒」と謳われてはいるが、
仏教が国教とは規定されていない。

タイ国民が納得した新憲法の下で、今後のタイ国家の命運を分けるであろう
大事な総選挙が無事行われることを願うばかりである。

すっかり鳴りを潜めている亡命中のタクシン氏であるが、先日、公衆党の
サナン党首とロンドンで会談した。
その中で、タクシン氏が率いていた旧与党の愛国党、サナン氏が幹事長を
務めていた旧野党の民主党、共に5月30日の憲法裁判所によって解散
命令の判決が下されるとの見通しで一致し、タクシン氏は、愛国党を復活させ
チャワリット元首相を党首に迎える方針を打ち出し、一方サナン氏は、
民主党を改めて結成し、党役員を務めていないチュアン元首相を新党首に
迎える考えを明らかにした。

そもそもの事件の発端は、昨年4月2日の下院総選挙の際、両党が弱小政党の
候補者に対する買収や選挙妨害を仕掛けたことによる不正に対し、中央選挙
管理委員会の要請によって、最高検察庁が憲法裁判所に申し立てを行った
ことに端を発している。

解散命令の判決が出た場合、党の創設者及び党役員全員が5年間、
被選挙権を失うことになり、勿論、タクシン氏もその範疇である。

タクシン氏への訴追及び王室への不敬容疑問題も捜査が続いていたが、
不敬容疑に関しては、最高検察庁は証拠不十分として立件を断念した。
資産隠しなどの疑惑については、スラユット首相が、
『最終章である。核心にせまりつつある。4月末には目処が付くだろう。捜査が
緩慢過ぎるとの声もあったが、法の支配を尊重すると性急にはやりたくなかった』
と述べている。
今後の捜査結果が気になる所である。

一方、資産調査特別委員会は、タクシン氏が英領バージン諸島に設立した
資産管理会社と同氏一族間とのSHIN CORPの株取引について、
“資産管理会社はタイ税法に基づき法人税の課税対象”と判断。
本来の税金及び追徴を合わせ、総額約209億バーツをタクシン氏、及び長男、
長女に課す事を決定した。
同社の経営者であった当3名が代替して支払う義務があるとの判断である。
これで、長男・長女は、先月結論が出された総額105億バーツもの所得税納税
命令に続く、多額の納税を課せられることになる。
さらなる今後の進展に注目したい。

今年の月報1月号において、外国事業規制法の改定案が閣議承認を得たと
記したが、その修正案も再度閣議の承認を得るという展開となった。
修正案では、同法に違反した場合の罰則を強化する一方で、タイ企業への
出資比率や議決権を50%未満に引き下げる上での猶予期間を2年から3年に
延長している。
政府では、“今後、さらに同法を強化していく”との方針もあるが、この動きに対して、
各方面より不満や抗議が続出している。

外国人投資家よりは、
『我々は、タイ企業と同等の扱いを受けることを求める。また、タイ政府が我々の
意見を聞き入れぬ事に非常に落胆している。現在、タイでは政治不安や治安悪化、
バーツ高といった投資環境が悪化する中にあって、近隣のベトナムは、投資に
支障をきたす諸法令の撤廃を進め、投資環境を改善させている。今回の政府の
判断がどのような結果をもたらすか自ら確認すればよい』
と強い不満を表明している。

実際、同じく近隣のインドや中国といった大規模な消費者市場が、各国の投資
拡大先となっている状況もある中で、タイ政府には、中長期的な視野を持ち、
投資先としての有利性が失われない様、慎重に検討・論議を進めて貰いたい
ものである。

昨年12月5日の国王誕生日に、国王の肖像画にスプレーを吹き掛けた行為で
不敬罪に問われ、禁固10年の実刑判決を受けたスイス人男性が居たが、
“不敬罪”そのものをあまり快く思われておられない国王は恩赦を発表し、
同日中にスイス人は釈放された。
また、一方で、米動画投稿サイトに国王を侮辱する内容の動画が投稿された
ことにより、政府が現在に至るまで同サイトへのアクセスを遮断しているなど、
外国人による「国王侮辱」の行為が立て続けに起こる事は憂しき事態であり、
外国人はタイ国民の国王への尊敬の念を逆なでする様な行為・言動はするべき
ではないと思う。

毎年恒例となっている最低賃金の値上げであるが、労働省の事務局長は、
毎年の引き上げを止め、5年毎に見直しを行う様、近く閣議に提出することになった。
これが実現すれば、日系企業を含む多くの進出企業に、コスト=人件費の部分で
大きな影響を与えることは間違いなく、実現が期待されるが、労働者や組合団体
からの反発も予想され、今後の動向が気になる所である。

第28回バンコク国際モーターショーが無事閉幕した。
総入場者数は約160万人にも上り、自動車予約台数は前年並みの約1万4000台、
総額約280億バーツの売上げ見込みとなった。

ソンクラン期間中に発生した交通事故は計3823件で、死傷者は4293人、
その内死亡者は318人であった。
主な原因は、飲酒運転とスピードの出し過ぎであった。

以上

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